【東京の怖い話】上野・不忍池に残るお蝶の幽霊伝説|怪談実話と歴史の残響

城東エリア(中央・台東・墨田・江東・葛飾・江戸川)

プロフィール

歴史を追い、怪談を書く、東京マスク美人:Riccaです。
江戸から令和へ受け継ぎたい《怖ぁ~い話》を、史実と現地感覚の両面からまとめました。
今回は、上野・不忍池に伝わる「お蝶の幽霊」について書いてみます。夜の池は、ただならぬ空気です……。

いわくの場所

不忍池は上野恩賜公園の南側、最寄りは京成上野駅・JR上野駅
昼間は観光客で賑わいますが、日没後は雰囲気が一変します。
治安上の事件も報じられているため、夜は一人歩きを避け、防犯意識を持って歩きましょう。

Riccaコラム:不忍池の夜とお蝶の声

上野の街は夕暮れになると、昼間の喧騒が嘘のように色を変える。JR上野駅を背に、不忍池へ向かう道を歩くと、観光客の声が少しずつ遠のき、風の音とわずかな水のさざめきが耳に届く。

あれほど賑やかだった池の周りも、日が沈む頃には人影がまばらになる。池に浮かぶ蓮の葉は眠るように頭を垂れ、わずかに吹く風でさえ、まるで古い時代の記憶を呼び覚ますようだ。

私が不忍池を訪れたのは、ある夏の終わりのこと
理由はひとつ。江戸時代から語り継がれる「お蝶の幽霊」の話に触れたいと思ったから。旅好きの私にとって、土地に残る“物語”は、ただの観光地を特別な場所へと変えてくれる。

祖母が語ってくれた『お蝶の怪談――恋人の裏切り』に涙し、この池に身を投げた女の話。その写し身が今でも静かに残っているという。

灯篭の灯りがともり始めると、池の真ん中に浮かぶ弁天堂は、昼間の顔とはまるで違う表情を見せる。赤い橋を渡ると、どこか結界のような空気を感じた。
木造の本堂は、湿った風を孕んで軋むようにきしり、その軒先にはお供えの花が静かに揺れる。

「ここから夜に池を覗くと、女の泣き声が聞こえることがある」

――地元の古い噂を、以前ネットの記事で読んだことがある。半信半疑の気持ちで、水面に目を落とす。
まだ夕暮れの光がかすかに残っている。だが、その奥には何か得体のしれない深さを感じた。
水面には、月のかけらのような明かりが揺れ、まるで私の目を誘うようだった。

池のほとりを少し歩くと、線香の匂いが微かに漂った。誰もいないはずなのに、どこかで人が祈っている気配がする。私は耳を澄ませた。

――すすり泣き。
風に紛れて、女の嗚咽のような音が、蓮の葉の裏から響く。足がすくみ、思わずその場に立ち尽くす。
池の水面が、かすかに波立っていた。
そして、見てしまった。

――え、白い顔が浮かんでる。
それは、決して月の反射などではなかった。目鼻立ちのはっきりした女の顔。目は開かず、唇だけが、何かをつぶやく。

恐怖と同時に、なぜか、懐かしさが胸を締め付けた。
祖母の声が脳裏をよぎる。

「お蝶はね、裏切られたの。好きな人を信じて、でも最後は裏切られて。」

お蝶は愛する男に婚約を破棄され、その悲しみのあまり不忍池に身を投げた。
それ以来、満月の夜や、夕暮れの静かな時刻になると、蓮の間から彼女が現れるという。

私は気づくと池の縁まで歩み寄っていた。
足元の土がじわりと湿っている。
その瞬間、背後から冷たい風が吹き、ぞくりと背筋が震えた。次の瞬間、膝下まで水に沈んでいた。

「――ッ!」
反射的に足を引こうとしたが、まるで見えない腕が私を引っ張っているようだった。
冷たい。氷のような感触が足首を絡め取る。

私は必死に岸に手を伸ばした。
けれど、後ろから誰かが私を抱きとめるように、柔らかい指先が腰を撫でた。

「また来て…」
かすれた声が耳元で響いた。
あれは、人間の声ではなかった。

気がつくと、私は岸に倒れ込んでいた。
さっきまで水に沈みかけていたのが嘘のように、足は乾いている。
ただ、耳の奥に残る声だけが、現実だったと告げていた。

池の表面は静かに月を映し、蓮の葉が微かに揺れている。白い顔はもうない。
ただ、私の影が水面に落ち、その隣に、知らない女の横顔が重なっていた気がした。

不忍池には、江戸時代から数々の怪談が残っている。
特にお蝶の話は、恋愛と裏切り、そして悲劇的な最期が絡むため、多くの人々の心に残っているという。
当時、不忍池は今よりも広く、死を選ぶ者の“水の墓場”とされていた。
彼女の魂は、今も誰かを待ち続けているのかもしれない。

池の周りには、弁天堂をはじめ、昔からの石碑や祠が点在する。
そこに手を合わせるたび、誰かの無念や祈りが、時間を越えて現在へと繋がってくるのを感じる。

不忍池を後にする際、私は一度だけ振り返った。
月が静かに池に落ちて、蓮の葉の間から一筋の風が吹いた。
それは「さよなら」と言っているようでもあり、「また来い」と呼ぶ声のようでもあった。
池を離れても、背中にあの冷たい指先の感触が残っていた。

怪談はただの物語かもしれない。
しかし、夜の不忍池に佇むと、歴史の残り香や、誰かの涙が確かにそこにある気がしてならなかった。

歴史の残響:不忍池が語る幽霊伝承と時の記憶

不忍池には、今も江戸時代からの伝承が息づいています。
たとえば「お蝶の幽霊」。恋人の裏切りに涙し、池に身を投げた娘の話は、「池に入ると水草が絡みつき浮かび上がれない」という恐怖のイメージと共に語られ続けてきました。
さらに彼女の魂は、茨城県・霞ヶ浦まで“移動”したという噂も残っています。広大な湖に伝説が広がる様子は、まるで怪談が時代と土地を旅するようです。

また、近年話題となった「幽霊の寿命は400年」説
江戸の怪異は、現代の私たちが想像する以上に“生きて”いても不思議ではありません。
明治・大正・昭和・平成と、時代を超えて積み重なる人々の記憶や祈り。
不忍池の静かな水面の下には、400年という時を超えて、なお消えない想いが眠っているのかもしれません。

読者からの怪談コメント

読者の皆様から寄せられた、不忍池や上野周辺にまつわる不思議な体験談をご紹介します。
(Facebook・Twitterにて、引き続き怪談コメント募集中!)

深夜散歩好き:
「夜明け前の不忍池、誰もいないはずなのに背後で足音がした。
振り向くと、蓮の間から白い影がこちらを見ていた気がする……。」

上野常連:
「夕暮れ時に池の縁に座っていたら、足首を冷たい水草が撫でる感覚がした。
ボート池の水面は、日が落ちると何かが潜んでいる雰囲気。」

昭和生まれの語り手:
「祖母から聞いた話では、池に近づくと“すすり泣き”が聞こえるという。
実際、今でも夜の不忍池には不気味な静寂が張り付いている。」

幽霊ウォッチャー:
「夏の夜、池を覗いた瞬間、月明かりに紛れて顔が浮かんでいた気がする。
すぐ消えたけれど、あの冷たさは今も忘れられない。」

地元の古老:
「昔から“お蝶の幽霊”の噂はあるが、平成の殺人事件もあったこの池は、
時代を超えた何かが集まる場所だと感じる。」

まとめ

不忍池は、江戸の怪談・明治の戦争・現代の事件が幾重にも堆積した、多層の怖さが漂う場所。
「お蝶の幽霊」を、ただの怖い話として片づけるには惜しい、歴史の断片を含んでいます。

上野を歩くときは、昼は史跡、夜は怪談──この2つを胸に、お散歩&怪談巡りを楽しんでくださいね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました