プロフィール
歴史大好き、東京タクドラ:Riccaです。各地の歴史や路地裏の文化に触れる旅を続けています。
大阪の町も、ただ観光地を巡るだけでは見えてこない裏の顔を知ることが出来ました。
場所・アクセス
今回歩いたのは大阪市浪速区「新世界」通天閣のすぐそばにある裏路地です。新世界エリアへは、大阪メトロ堺筋線「恵美須町駅」から徒歩すぐ。また、JRや大阪メトロ「天王寺駅」からもアクセス可能です。
見どころ
新世界は、明治から昭和にかけて大衆娯楽の街として栄え、通天閣や動物園、ジャンジャン横丁などが有名です。一方で、そのすぐそばに「あいりん地区(釜ヶ崎)」と呼ばれる地域が広がり、日雇い労働者の街として独自の歴史を築いてきました。治安のイメージから恐怖や先入観を持つ人もいますが、コロナを経て、現在は海外バックパッカーの宿泊地となっています。
東京では感じられない、昭和から時が止まってしまったような空気感。観光地の光と、路地裏に漂う影。そのギャップが、この西成のリアリティを物語っています。
Riccaコラム:通天閣の光と裏路地の影
旅というのは、不思議なもの。地図を片手に有名観光地をめぐる時には気づかないことも、ふとした寄り道や、地元の人との会話の中にこそ、その町の「素顔」が見えてくる。今回の旅の舞台は、大阪市浪速区。観光地として名高い「新世界」そしてそこにひっそりと佇む路地裏の一角だ。
西成をめぐるシリーズも今回で4回目。
通天閣のネオンの輝きのすぐ脇に広がるアンダーグラウンドな場所「通天小町」という名のハッテン場を訪れた日の記録を綴ってみたい。
大阪を知らなかった自分に気づく
大阪には10代の頃から何度も訪れている。音楽仲間のいる豊中市、中学時代の友人の暮らすエリア、梅田や難波といった繁華街。
そのため「大阪は知っている町だ」と、私は思い込んでいた。
だが、西成を歩き、天王寺を抜け、南の河内や堺・岸和田まで視野を広げてみると、私の知る大阪はごく一部に過ぎなかったことに気づかされる。大阪城ですら足を運んだことがなかった自分に、苦笑いするしかない。
旅とは、自分の無知を知ることでもある──まるでソクラテスの言葉を地で行くように、私は大阪を歩きながら新たな発見を積み重ねていった。
新世界とキヨちゃんとの散歩
今回一緒に歩いたのは、京都出身で今は大阪に暮らす友人・キヨちゃん。
「大阪の街の裏の部分」が見えた時、必ず「でも俺、京都人やもーん♪」と笑って返す、憎めない男である。
立ち飲み屋を出たあと、私たちは新世界の路地をあてもなく歩いた。観光客で賑わう表通りから外れると、少しずつ空気が変わっていく。
串カツの香ばしい匂い、昭和の映画看板、そして「試写ビデオ」という年季の入った看板が掲げられた小さな路地に、私たちは足を踏み入れた。
「なぁ、リッカ。ここな…… ゲイの交流場やねんで」
キヨちゃんが指差した建物の名は『通天小町』彼の言葉に思わず聞き返した。
「えっ、ここが?結構狭くない?」
「何言うてんねん。狭ないで。この敷地全部や」
ふう―――ん… 異世界でしかない私は、キヨちゃんの言葉に、そう返すしかなかった。
「俺も一回入ったことあんねんけどな、男はアカンかったわ。笑」
通天小町という場所
『通天小町』は、いわゆるハッテン場である。ハッテン場という言葉を初めて知ったのは、24歳の時に訪れたロサンゼルスで、だった。現地ガイドが観光バスで案内しながら、あっけらかんと説明してくれたのを覚えている。
「この辺は夜になると賑わうハッテン場です。男性の方はぜひどうぞ。ただし、女性は歓迎されませんのでご注意を」
日本で暮らしていても耳にする機会の少ない文化を、アメリカで知ることになるとは思わなかった。
その後、東京でタクシードライバーとして働くようになり、新宿二丁目を走ることも増えた。先輩たちから「お客に口説かれた」なんて武勇伝を聞かされることもある。ニューハーフの方や女装子さんを乗せることも多いが、私自身は二丁目の夜を深く知ることはなかった。
だからこそ、大阪・新世界の路地裏で目にした『通天小町』は強烈な印象を残したのだ。
ビデオ店の隣にあるもの
路地の奥を進んでみると、景色が少し変わった。
『通天小町』のすぐ隣には『ビジネスイン英都』というホテルが建っている。
つまり、ビデオ店で出会った人と意気投合すれば、そのままホテルへ向かい愛を確かめ合うことができる仕組みになっているのだ。
「この、試写ビデオから入っていくんや。個室がいくつかあってな。そこで仲良くなったら、隣のホテルに移動するんやで」
キヨちゃんは少し茶化すように説明してくれる。
「見た目が女なら抱けるけど、男相手やと俺は勃たへん」
冗談めかした言葉に、私は苦笑いしながらも、彼の正直さに少し救われる思いがした。
アンダーグラウンド大阪の顔
観光ガイドブックには決して載らない場所。しかし、こうしたアンダーグラウンドな側面こそが大阪の「人間臭さ」や「懐の深さ」を物語っているようにも思う。新世界という町は、明治から昭和にかけて大衆娯楽の象徴として栄えた。通天閣やジャンジャン横丁、動物園。だが同時に、路地裏ではアウトローやマイノリティたちの生きる場所も生まれてきた。
「表と裏」が共存していること。それが、大阪の町の魅力なのだろう。
旅の記録として書くということ
今回の記事は、書いては消し、また書いては消し……そんなことを繰り返していた。なぜなら、時系列に書けばキヨちゃんとのラブストーリーのように読めてしまうからだ。
だが、私が伝えたいのは恋の話ではない。旅先で出会う「文化」や「歴史」、そして「人々の生き方」だ。
大阪・西成から浪速区・新世界へ。旅の延長線上に見えてきたアンダーグラウンドな景色を、ここに記録しておくことで、同じように旅する人たちに「こんな大阪もある」と知ってもらえたら嬉しい。
通天閣の光と通天小町の影
煌びやかな通天閣を見上げながら、そのすぐ脇にある『通天小町』の看板を思い出す。光と影、表と裏。どちらもひっくるめて「大阪」という町のリアリティ。観光客向けの華やかな新世界も面白いが、ほんの数歩裏路地へ入るだけで、全く違う大阪の姿が現れる。それは、歴史を知る旅でもあり、人間模様を知る旅でもある。
「次はどんな大阪に出会えるのか」──西成から始まった旅は、まだまだ続いていく。
アドバイス
新世界周辺は観光地として賑わっていますが、裏路地に入ると一気に雰囲気が変わります。夜遅い時間や一人歩きには注意が必要ですが、昼間に散歩する分には大きな危険は感じませんでした。恐怖や先入観に縛られず、最低限の安全意識を持って歩けば、その土地の歴史や人間模様に出会えるはずです。
読者コメント
「表通りから少し外れるだけで、全く違う空気があるのですね。とても興味深いです!」
「東京と大阪の違いがよく伝わってきました。実際に歩いてみたくなりました。」
「裏路地の文化や歴史を知れるのはRiccaさんならでは。次回も楽しみにしています。」
まとめ
先入観とは違った西成・新世界の姿を体感できました。煌びやかな通天閣のすぐ隣に広がる“裏の大阪”。その表裏を知ることこそ、この町の魅力を理解する鍵です。
次回は夜の町を歩き、昼間とは違う顔をお伝えします。
→ 旅⑤はこちら
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